世界一わかりやすい、音を大きくする話

  2009.08 (2014.07 改訂) by さいはね a.k.a. ryochin

■ はじめに

といった話をよく耳にします。もし曲作りで1つしかプラグインを使ってはいけないと言われたら、
私ならたぶんコンプレッサーを選びます。

とても重要なエフェクトなのに、ウェブでもわかりやすい説明がないので、重要なポイントだけまとめてみました。
ということで、そもそもコンプレッサーを使ったらなにが嬉しいのかを、難しいパラメータ等を無視して
実戦的に説明してみようと思います。

オーディオ全般に通用する話ですが、特に DTM でポップス曲をミックスする初心者の方へ向けて書かれています。
また、歌ってみたなどでオケにボーカルを乗せたい時も参考になるでしょう。

■ 目次

■ ノーマライズ編

音の素材は「ノーマライズされている」のが基本です。ノーマライズ済みとは、言い換えると
「その音素材(ファイル)の最もレベルの高い位置が 0db」になっている状態のことです。
波形編集ソフトで開いてみると、ノーマライズされているかどうかは一発でわかります。

ノーマライズは日本語で「正規化」や「標準化」みたいに書かれることがありますが、同じことです。

言葉にすると難しく感じますが、単純に、ギリギリまで信号レベル(音量)を上げることです。
図にしてみると・・

図1 ノーマライズ

波形編集ソフトがあれば、「ノーマライズ」機能で「0db」または「100%」を選べば一発で完了です。
DAW によってはその機能もついていますね。

参考までに、Win/Mac 対応のフリーの波形編集ソフト Audacity での例を挙げておきます。

ノーマライズ例

DTM などでミックスする場合、必ず自作の音素材(たいていボーカルやギターでしょう)には、
あらかじめノーマライズをかけるようにしましょう。元の素材にまだ大きくできるマージンが
残っているのに、コンプ等をがんばってかけたってあまり意味がありません。

なお、プロが作った素材(DAW 付属の音源や素材集)はたいてい、あらかじめノーマライズ
されているので、特に気にする必要はありませんよ。

■ コンプ編

今回の話は、次の2つの目的を併せて進めていきます(なにせ「実戦的」だからね)。

 1.音をクリップさせずに大きくする
 2.ある楽器のパート(今回はボーカル)を聴きやすくする

例として、次のように単純化した曲のイメージ図を用意しました(横軸は時間の流れです)。
あなたは、ポップス曲に歌を入れたいと思い、とりあえずオケにボーカルトラックを追加してみました。

図2 オケとボーカルを単純に打ち込んでみた状態

鳴らしてみると、「ボーカルの音がオケに埋もれてしまっているなぁ・・」と思うはずです(思って下さい)。

あなたは、「そうだ! とりあえずボーカルのレベル(音量)を上げればいいんだ」と考えるはずです(よね?)。
では、DAW のフェーダーをいじって、ボーカルのレベルだけ上げて、目立たせてみましょう。

図3 ボーカルだけレベルを上げてみたよ

うん、確かにボーカルがはっきり聞こえていい感じ・・。
ところが! ところどころボーカルの音がクリップしてしまいました(=音が割れた)。

DAW のマスターチャンネルで、クリップしたことを示す赤い表示(この場合は 1.8db オーバー)が出ています。

クリップの例

音の信号は絶対に 0db より大きくはならないので、無理矢理大きくした部分が歪(ひず)んでしまいます。
「え、音って無限に大きくなるんじゃないの?」確かに現実世界の音はそうですね。でも、機材や PC が扱う
「電気信号(をデジタル化したもの)」は、無限には大きくできないんですね。

「音のレベルはできるだけ上げたいけど、クリップはさせたくない!」ですよね?

そこで、ボーカルにコンプをかけます。パラメータの詳細はがっつり省略。

コンプは2段階で作用します(ここ重要)。

【第1段階】レベルの大きい部分を、引き下げる(音をつぶす、だからコンプレッサー)

図4〜5 コンプのしくみ

ある一定以上のレベルの部分を、「山の形を保ったまま」圧縮していきます。山が小さくなればなるほど、
「コンプを深くかける」とか「音をしっかりつぶす」といった言い方をします。

乱暴に言ってしまえば、ところどころ目立ちすぎている部分を抑えるわけですね。

メリット:音の最大レベルと最小レベルの差(=ダイナミックレンジ)が小さくなるので、聴き取りやすくなる
(つまり、耳にストレスがかからない)。ラジオなんかの音声も、笑い声からささやき声まで全般的に聞き取りやすい
ようにかなり深くかけてるようですね。

デメリット:あまりつぶしすぎると、躍動感のないのっぺりした音になります。もちろん、
そっちのほうが都合がいい音楽ジャンル・楽器・音素材もあります。

では、元のオケに重ねて見てみましょう。こんな感じですね。

図6 ボーカルにコンプをかけた状態(まだ途中)

「ボーカルだけ取り出してみると、確かに聞き取りやすくなった・・けど、
 これだと、ますますボーカルが埋もれちゃうじゃん!」

はい、その通り。しかし、「前より天井(0db)との間のスキマが広がっている」
ことに着目して、次に・・。

【第2段階】コンプをかけたボーカルトラック全体を持ち上げる(レベルを上げる)

図7 コンプかけたボーカルのレベルを上げてみたよ

すると・・ なんということでしょう!
クリップさせずに、ボーカルの音だけ大きくすることができたではありませんか!
※右の図2と比較しよう!

この2つの作業をコンプはいっぺんにやってくれます。便利ですね。

コンプを積極的に使えば、「音を整理」できるようになります。特定の音を自在に目立たせる
ことができるわけですね。

コンプの世界はとても奥が深く、「音作り」にも積極的に利用されます。アタックを削ったり
といった用途にも使用できます。プロは数十万円以上する機器を使うほど、重要なのです。

チャンネルに挿す場合のイコライザー(EQ)との順番ですが、「EQ → コンプ」と
「コンプ → EQ」のどちらもあり得ます。「EQ → コンプ」のほうが多数派のようですが、
私はたいていコンプ → EQ にするほうがコントロールしやすいように思います。ジャンル・
楽器や好みによっても変わるようですから、自分の耳を信じるのみ、ですね。

ちなみに、よく「この曲は音圧が高いな」という言い方をしますが、全体的にコンプを
ガリガリに強くかけて、多くの音を 0db に近づけた曲をそう表現します。波形の形から、
「昆布」とか呼ばれます。それを通り越して真っ黒になると「海苔」に変わります。

参考 昆布状態!

■ リミッター編

コンプと同じくらいリミッターは重要です。というか、実はこの2つ、機能的には
同じ仲間で、大きくみると「リミッターはコンプの使い方の1つ」に過ぎません
(円は楕円の特殊な状態、というのに似ていますね)

有無を言わさず指定したレベルまでぶっつぶして、ぴったりそのレベルに合わせてしまいます。

図8〜9 リミッターのしくみ

コンプでも、設定すれば全く同じ効果が得られますが、だいたいは別の
プラグインになっています(そっちのほうが便利だから)。

どんな時に使うかというと、「絶対にクリップして欲しくない時」です。だから、
マスターチャンネルにはふつう必ず挿します。それからエレキギターなど、ときどき
高いピーク(音のレベルがとりわけ高い部分)が出やすい楽器などですね。

コンプは指定した圧縮率に沿ってゆるやかに圧縮しますが、リミッターは過激です。
そのぶん、リミットがかかった前後はわりと不自然になりがちです。なので、
音作りの道具というよりは、どちらかというと「安全のためのツール」だと思って下さい。

また、コンプとリミッターを同時に使うこともよくあります。というか、ヘンな話ですが、
例えば私が使っているコンプには、コンプの中にリミッター機能があります(ややこしい)。

たいてい、0db (や -0.1db)あたりに設定して、音の出口(プラグインのチェインの最後)に
挿します。

より積極的な使い方をする例としては「マキシマイザー」や「ファイナライザー」といった
別のエフェクトとして扱われます。

■ 次のステップへ

今回はボーカルを例にとりましたが、全ての楽器で同じ事が言えます。

「音を前に出す(目立たせる)」にはコンプが必須です。ポップスなどは音がたくさん鳴っているので、
ボーカルやリード楽器(ギター・鍵盤など)を音の海から目立たせる必要があります(=メリハリをつける)。

「音を目立たせる」ことは、単純に「音のレベルを上げる」ことではない、ということを感じて頂けたなら、
幸いです。次の段階として、楽器ごとにパラメータを変えたり実験をしてみるとよいでしょう。

もっと詳しく知りたくてたまらないひとは、コンプ特集が載っている音楽雑誌をブックオフで探すのをおすすめします。
ウェブを検索してもきれいに説明しているサイトはなかなかありませんので。それでは、快適な DTM ライフを!

もう少し詳しく解説されているサイトを挙げておきます。

■ オマケ

コンプありと無しでどれくらい印象が変わるのかの参考に、短い音源を用意してみました。
私もそんなに使いこなせていませんし、ミックスは勉強中なのでお遊びとしてひとつヨロシク。

両方ともノーマライズを100%(0db に合わせて、つまり最大限)かけてあります。
ポップス曲としては、それほどコンプをかけていない部類に入るので、少しわかりにくいかもしれません。
できればヘッドホンでどうぞ。

【コンプなし】すでに完成している曲からコンプ類をオフにして、バランスを調整しなおしてみました。

コンプ無しの波形

【コンプあり】オリジナルのものです。

コンプありの波形

いかがでしょうか? コンプ無しだとやはりキツいですね、これくらいが限界です。それだけ単体で聴いてみると
わりと違和感ないというかそれなりなのですが、聞き比べるとだいぶ印象が変わることがわかると思います。

コンプ無しのものは、なにか手前に壁があるように感じませんか? 音自体はクリアなのに・・。
コンプを使うと、特定のトラックの「音を前に出す」ことによって、立体感を持たすことができるわけですね。

おわり。